ロレアルR&Iジャパン バイオサーファクタントの機能に関する新知見を発表
― ソホロリピッドによるバイオフィルムの除去機構 ―
世界最大の化粧品会社ロレアルグループの日本における研究開発部門であるロレアル リサーチ&イノベーション ジャパン(研究所:神奈川県川崎市、所長:アミット・ジャヤズワル、以下R&Iジャパン)は東京理科大学 創域理工学部 先端化学科 酒井秀樹・酒井健一研究室との共同研究によって、微生物が生成する界面活性剤*(バイオサーファクタント)の一種「ソホロリピッド」がモデルバイオフィルム除去機構の一端を解明し、Journal of Oleo Science誌に発表しました1)。
ニキビやアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患には皮膚の細菌叢が関与しています。これらの細菌はバイオフィルムと呼ばれる自身が生成した細胞外高分子物質(EPS)のマトリックス中で共生しています。バイオフィルムは強固な構造を持ち、治療のための薬剤が効果を発揮するのを妨げることもあることから、バイオフィルムの除去は皮膚疾患の改善に寄与すると考えられます。ソホロリピッドは酵母から作られる微生物由来の界面活性剤(バイオサーファクタント)で、生分解性が高く、安全性の高さ、そして肌との親和性ゆえに、化粧品への更なる応用が期待されています。先にロレアルR&Iジャパンと東京理科大学が行った研究2)で、ソホロリピッドはEPSのモデルとして用いたβ-グルカン被膜を除去するのに有効であることがわかり、今回、ソホロリピッドによるモデルバイオフィルム除去機構の解明を代表的な界面活性剤として用いたドデシル硫酸ナトリウム(SDS)との比較で検討しました。
β-グルカン粒子の水溶液にソホロリピッドを加えると界面活性剤無添加の場合に比べ、β-グルカン同士の凝集を抑制する傾向が観測され、ソホロリピッドを高濃度添加した時にはβ-グルカン粒子のサイズは小さくなりました。一方、SDSでは、β-グルカン同士の凝集を寧ろ促進していることが観察されました。ソホロリピッドは嵩高い親水部とカルボキシル基からなるユニークな分子構造を持っており、主に疎水性相互作用を介してβ-グルカンに吸着した際、立体障害と静電反発が生じβ-グルカンの凝集を抑制していると考えられました。更に、ソホロリピッドは溶液中でβ-グルカンが形成する三重らせん構造を壊すことなく、凝集体を分散させていることがわかりました。これらの結果は、β-グルカンに対するソホロリピッドのユニークな性能を実証し、抗バイオフィルムとしての優れた有効性について、より多くの知見を提供しています。
ソホロリピッドは発酵で得られる微生物由来のサステナブルな原料でもあり、化学合成系の界面活性剤の代替として有望と考えられています。当社ではソホロリピッドをはじめとするバイオサーファクタントの特性に着目し、化粧品分野への応用に生かしてまいります。
用語解説
*界面活性剤:水と油、双方に親和性を持ち、これらの本来混ざらない物質を混ぜ合わせることのできる分子。洗剤、溶剤,乳化剤などに利用される
** 細菌叢:多種多様な細菌が集まって存在する細菌集団の全体
参考文献
1)Kaga, H., et al., J. Oleo Sci., 73, (2) 169-176 (2024)
2)Kaga, H., et al., J. Oleo Sci., 71(5), 663-670 (2022)